2015年10月28日水曜日

Silicon Quantum Electronics Workshop 2015

こんにちは。
学生スタッフの山田です。

前回お伝えした通り、今回は一つ目の学会、
Silicon Quantum Electronics Workshop 2015 (通称SiQubit 2015)
の内容について書きたいと思います。

前回述べた"シリコンを用いた量子・電子素子"ですが、
まずはシリコンについて説明したいと思います。

シリコン(ケイ素:Si):原子番号14、周期表では炭素の真下に位置します。
安定同位体は28Siが92.2%、29Siが4.7%、30Siが3.1%の3種類が存在します。

皆さんが日常使用しているパソコン、スマートフォンなどの電子機器には必ずといっていいほど、
シリコンの集積回路が組み込まれています。
IT革命と評される情報技術の急発展は、ムーアの法則(注:1)に従うように、シリコンチップ上に作られるトランジスタの数が増えていくことで支えられてきました。
しかし、その進歩も限界が見えてきました。

そんな中あらわれたのが量子コンピュータという概念です。
簡単に言うと、原子1個レベルで計算を行う(これがQubit)というものですが、
最大の特徴は"量子力学的重ね合わせを用いた超並列計算が可能である"点です。
シュレーディンガーの猫(注:2)のように、二つの状態が同時に存在するということです。

ex) 二つの核スピンを用いた並列計算
↑↑ and ↑↓ and ↓↑ and ↓↓ の四通りを同時に取り得る。
その中から解の状態だけを読み取る。


このような仕組みをシリコンチップ上に実現しようというのが"シリコン量子・電子素子"です。

アプローチはいくつかあり
・29Siのみが持つ核スピンを利用したもの
・28Siに添加したドナー不純物(注:3)の核スピンを利用したもの
・シリコン表面近傍に誘起した量子ドット(人工原子)を利用したもの
など様々ですが、実現にはまだ時間がかかりそうです...

量子コンピュータが実現されると......
分子シミュレーションなど膨大な時間がかかる計算ができる反面、現在主流であるRSA暗号のような素因数分解を用いた暗号が容易に解読されてしまうという危険もあります。


もしかするとNSA(注:4)が既に開発に成功し、世界中の通信を解読しているかも...?

興味を持った方は 講談社ブルーバックス 竹内繁樹 著 「量子コンピュータ:超並列計算のからくり」を読んでみてください。


山田


注:1 半導体の集積率が18ヶ月おきにおよそ倍になっていく という予測
注:2 一つの箱に猫、ガイガーカウンター、ラジウム原子、青酸ガス発生装置を入れる。ラジウム原子がアルファ崩壊し、ガイガーカウンターが検知すると青酸ガスが発生し猫は死んでしまうが、観測されるまでは、生きた猫と死んだ猫の二つの状態が重ねあわされて存在しているというエルヴィン・シュレーディンガーによる思考実験。
注:3 ドナー不純物とはシリコン中に微量加えられる、リン、ヒ素、アンチモンなどの15属元素。これによってシリコンの抵抗率を調整できる。
注:4 NSA (National Security Agency) アメリカ国家安全保障局。アメリカ国防総省の諜報機関。フィクションであるが、ダン・ブラウン著 パズル・パレス(原題:Digital Fortress)で、そのようなストーリーが描かれている。

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