こんにちは。春学期水曜担当の吉川です。
今回は僕のおすすめ本を紹介します。
学部2年、3年に進むと、微積分や線形代数が空気のように扱われるようになります。
そして、こうした技術的な部分でつまずいてしまい、講義の本題があまり理解できなかったという経験をした方は一定数いるのではないでしょうか。
少なくとも当時の僕はその一人です。
そこで今回は、学部2年、3年の時の自分が読んでおきたかった微積分、線形代数の本をテーマにおすすめ本を紹介しようと思います。
まず、微積分のおすすめはこの本です:
本書の特徴:
集合論の基礎や $\epsilon$-$\delta$ 論法、実関数の微積分からFourier 級数展開、Banach 空間上の微積分まで解析学の基礎的な内容を幅広く取り扱っています。
本書は次のような人におすすめです:
・学部1, 2年生の内容を復習したい人
・Banach 空間上の微積分の基礎を学びたい人
僕は学部4年の時にこの本を読み、主に Part 4 の Banach 空間(完備ノルム空間のこと、本書では Banach 空間という名前では書かれていない)上の微積分について学びました。
Part 4 では Fréchet 微分(全微分の一般化)、Banach 空間上の逆関数定理、陰関数定理、常微分方程式についてまとめられています。
僕の専門の微分方程式では、これらの内容は基礎知識として扱われ、日常的に使うので、微分方程式に興味のある方は本書を一読しておくことをおすすめします。
注意点:
Euclid 空間に限定した場合の逆関数定理、陰関数定理、常微分方程式については載っていないので、その場合だけを勉強したい方は別の本を参照すると良いでしょう(例えば杉浦光夫 (著)「解析入門Ⅰ、Ⅱ」や垣田高夫、入江昭二 (著)「常微分方程式 (応用解析の基礎)」)。ただし、Euclid 空間に限定した場合も証明はまったく同じです。
また、Fréchet 微分を勉強するにあたって、方向微分の一般化である Gâteaux 微分も勉強した方が良いと思うのですが、本書ではGâteaux 微分については扱われていません。(Gâteaux 微分については適当にネットの pdf を漁って勉強したのでおすすめの本はわからないです。すみません。 )
次に、線形代数のおすすめはこの本です:
本書の特徴:
$\mathbf{R}^N$ や $\mathbf{C}^N$ より一般の (有限次元) ベクトル空間についてすっきりとまとめられています。
本書では、最初から抽象的なベクトル空間の定義を行っており、最短で必要な理論を学ぶことができます。
多くの線形代数の本では、まず $\mathbf{R}^2$ や $\mathbf{R}^3$ について詳しく扱った後、$\mathbf{R}^N$ へと一般化し、最後に一般のベクトル空間の定義を行います。
初学者にとってはこのような順序で学ぶのが自然で理解しやすいと思いますが、一般のベクトル空間について最短で学びたい場合はやや回り道になります。
僕は学部3年で統計やホモロジー、多様体を学んだ時に、線形代数で苦労したので読み始めました。僕が読んだのはおおよそ1章から5章で、一部は飛ばしました。行間が少なく、スムーズに読み進められました。
注意点:
本書は理論として非常にきれいにまとまっているのですが、初学者には抽象的でつかみどころがなく、モチベーションを理解することが難しいです。
ある程度線形代数を学んだ後、応用で躓いた人にはおすすめできますが、完全な初学者がこの本を読む場合は $\mathbf{R}^2$ などから始めている本(例えば斎藤正彦 (著)「線型代数学入門」)と並行して読むと良いと思います。
また、最初から本書の内容をすべて理解しようとするのは避けたほうが良いです。
例えば、この本では $\mathbf{R}$ や $\mathbf{C}$ を一般化した体 $K$ 上でベクトル空間の定義を行っていますが、体を真面目に学んでから読もうとすると p.4 から先に進めません。
体の定義くらいならそれほど時間はかからないかもしれませんが、命題 1.2.12では $\dim_{ \mathbf{Q} } \mathbf{R} = \infty$ を証明するために $\pi$ が超越数であることが用いられています。ここで $\pi$ が超越数であることを証明してから読もうとすると詰みます。
なので、すべて理解しようとするのではなく、難しい部分はある程度流して読むことをおすすめします。
今回おすすめしたい本は以上です。誰かの参考になれば幸いです。それではまた。
(吉川)