2023年10月20日金曜日

院試験における口頭試問の雰囲気 (月曜担当 奥土) 


こんにちは、ラーニングサポート月曜担当の奥土です。

口頭試問というものは皆さんご存知でしょうか?

口頭試問とは院試験の際に課せられることがある、多くの教授の前で、問題を出されて激詰めされるというイベントです。結構レアなイベントなので、受ける際は存分に噛みしめて味わいましょう。

今回、そんな口頭試問の雰囲気を味わえる数学の問題を2問ほど作ってきました。高校数学の中から出題しているので、数学に自身のある方はぜひチャレンジしてください。記事後半には解答解説を付けています。

問題文中の会話は、私の中のいじわるな教授のイデアと典型的な受験生のイデアによるものです。完全フィクションであり、面白くするために誇張されております。実際の口頭試問では教授はもっと優しいです。


【問題Ⅰ】
以下の文章を読んで後の問いに答えなさい。

教授「オイラーの多面体定理を知っていますか?」
受験生「はい、知っています!」
教授「では、定理の主張を教えてください。」
受験生「任意の多面体に対して、(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=2となります。」
教授「なるほど、君はドーナッツを食べたことがないのかな。」
受験生「?????」

問1 オイラーの多面体定理の主張を答えなさい。
問2 受験生がドーナッツを食べたことがないと教授が思ったのは何故か、答えなさい。


【問題Ⅱ】
以下の文章を読んで後の問いに答えなさい。

教授「x^2=2, x>0を解いてください。」
受験生「√2です。」
教授「√2とは何ですか?」
受験生「2乗すると2になる正の実数です...」
教授「なるほど、ある正なる・実数xが存在して、x^2=2となる。そのようなxを√2と呼ぶということですね。」
受験生「はい...」
教授「√2が存在することを示してください。」
受験生「...」

問1 √2の存在を主張する際に用いる定理の名前を答えなさい。
問2 問題1を踏まえたうえで、√2が無理数なことを示しなさい。


【解答・解説】
問題Ⅰ-1
解答 :
球面に同相な(穴の開いていない)任意の多面体に対して
(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=2となる。
解説 :
中学校でオイラーの多面体定理を初めて習ったときは、正多面体5種類を列挙して、(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=2となることを確認していたと思います。つまり、知識レベルに応じてこの解答は変わってきます。任意の正多面体に対してと制限を付けても、この問題は正解になります。では、任意の多面体に対してはどうなるのかというと、計算の値はオイラー標数という多面体の穴の数に依存した値になります。球面に同相な多面体の場合、その値は2となります。この場合のオイラーの多面体定理の証明は割と簡単なので調べてみるとよいでしょう。キーワードは平面への展開と三角形分割です。

問題Ⅰ-2
解答 :
球面に同相でない図形を認識したことがないのかと思ったから。
解説 : 
トーラス体(ドーナッツ)と同相な多面体のオイラー標数は0であり、(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=2が成り立たちません。(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=0であることは、トーラスの任意の筒のくびれを辺に従って二つに切ることを考えると、面の数は2つ新たにできた球面に同相な多面体ができることを考えれば分かります。

問題Ⅱ-1
解答 : 
中間値の定理
解説 : 
中学校から√2という値は使いますが、その値の存在は高校の数学Ⅲの中間値の定理まで先延ばしにされます。中間値の定理を使うと、y=x^2-2のグラフの[0,2]区間にて、0=x^2-2なる正の実数xが存在することが分かり、中学生からの長年の謎である無理数って存在するのという疑問が解消されるのです。ちなみに、中間値の定理自体の証明や関数の連続性は大学1年の解析の授業まで先延ばしにされます。

問題Ⅱ-2
解答 : 
√2が有理数であると仮定する。するとなんやかんやあって素因数分解の一意性が崩れる。√2は中間地の定理より実数であって、背理法より有理数ではないので、√2は無理数である。
解説 : 
背理法を習った際、√2が無理数であることを証明したと思います。その際に呪文のように「√2が無理数でない、つまり有理数であると仮定する。」と唱えていたと思います。これって正しいのでしょうか?例えば、虚数単位は有理数でないことはすぐに示すことができます。このロジックで言うと虚数単位iが無理数になってしまいます。一度無理数の定義に戻りましょう。無理数とは実数のうち有理数でないもとして定義されます。つまり、√2が実数であることを言及しなければならないのです。これを認識していないと、「有理数でないならば無理数」という呪文は「虚数だったらどうなるの」という素朴な質問にやられます。


終わりに...
私の代まで数理科学専攻希望は口頭試問が必須でした(どうやら今は違うらしい)。後輩のためにアドバイスを残しておきます。
  • 口頭試問はメンタルゲーです!
    • 怖い顔をして座っている教授10人の前で、問題を出され、即座に解答を求められるのはかなり圧迫感を感じます。
    • ペーパーテストではわからないものを後回しにして、ゆっくり考えることができますが、口頭試問ではそうはいきません。
    • 少し慣れるために、同期や先輩に頼んで口頭試問を練習させてもらいましょう。
  • 聞かれることは基本の基本を聞かれます。
    • 特に線形代数と解析は絶対聞かれます。学部で3AB, 4ABの教科書を読みなおして、そこにある問題を解けるようになっていると安心です。
    • 学部の共通科目の数理科学基礎第1、第2、第3のプリントは残しておきましょう。知っておかなければならない情報がリストアップされているので便利です。
    • 口頭試問のみであっても、筆記試験問題に目を通しておくと良いでしょう。
  • 分からなかったら、助けてくれることもある。
    • 分からなかったときは、助け船を貰えることがあります。焦って頭真っ白になるのが一番まずいです。
    • ごまかそうとすると、絶対質問が飛んでくるので、やめておいた方が良いです。
数理科学専攻の口頭試問に関する相談も対応しておりますので、お気軽にラーニングサポートまでおこし下さい。

奥土